上に載せた動画は2009年5月30日にスイスの主要メディア新チューリヒ新聞(NZZ)が放映した番組で、リスク社会の発案者であり、世界的権威であるウルリッヒ・ベックが質問に答えてわかり易くリスク社会を述べた貴重なフィルムである。
ベックは2015年1月1日心筋梗塞で70歳で急死したことから、フィルムを世に出すことをメディアの使命と感じたかは定かでないが、NZZが2016年に世界に公開したフイルムである。
この番組の冒頭でも述べられているが、2009年の放送時は豚インフルエンザが世界を襲い、一時的に脅威のパンデミック襲来と世界を震撼させた直後である。
何故なら、2003年のコウモリ由来のサーズコロナウィルス襲来以来ドイツやスイスでは、動物由来のウイルス感染症パンデミックが警戒されていたからであり、当時ベルリンに暮らしていた私自身も、日々の豚インフルエンザ報道の異常さには驚いたものである。
先ずこの番組でなされたのは、NZZ質問者の「現代はリスク増大に反して死者数は減っている」という指摘に、ベックは「量的大きさではなく、リスク概念を見るべきだ」と主張している。
そしてリスク概念については、「それは人を引付けるもので、崩壊ではなく、言わばその際生じ死者数ではなく、リスクが本質的に知らない未来を語り、未来の予見を求めるものでなくてはならない」と述べている。
またリスク段階を3段階に分け、第一段階はリスクが自然や神々によって決められていた時代で、その原因は人に属していないとしている。
第2段階は近代であり、産業社会がリスクを造り出しており、その原因は人にあるとしている。
そして第3段階は最先端の現代であり、リスク予見は正確に把握できないと述べている。
「それではリスク概念は未来の懸念に過ぎないのではないか」という質問者の指摘に対して、「未来の懸念ではなく備えである」と明言している。
そして今回の最後では、大きなリスクは経済と技術の進歩と平和維持(抑止力としての核武装や平和を守る軍備拡張)から生じており、福祉国家(格差是正)で法治国家(民主主義の法順守)を基盤とするヨーロッパの国では、二つの基盤がリスクを回避を提供してきたと述べている。
しかしそのような基盤のない韓国、日本、中国は、リスクが高いと警鐘している。
実際この約2年後日本で福島原発事故が起きると、ベックはメルケルの招集した倫理委員会の中心メンバーとして働き、ドイツの脱原発を実現させている。
日本は法治国家であり、富の再配分で生活保護を実施して福祉国家に近いと思われる人もあるかもしれないが、ドイツから見れば経済至上主義で、憲法の重要な法は理念にしか過ぎず、格差拡大を容認する国である。
それ故福島原発事故の際日本の報道を全く信用せず、炉心爆発のリスクを予見して、東京の大使館職員などをすぐさま関西へ避難させたのであった。